網膜上膜
網膜前膜、黄斑上膜、黄斑前膜ともいいます。アナログカメラのフィルムに当たる網膜の上に余計な膜が張り、網膜を引っ張ることで、網膜がひきつれてしわが寄り、視力が低下したり、ゆがんで見えたりする病気です。網膜の病気の中では頻度の高いよくある病気です。この病気の患者さんにおいて、見え方の質に最も大きく影響するのは視力ではなく、ゆがみの程度であると報告されています(Okamoto et al. Am J Ophthalmol 2009)。したがって、視力のみならず、ゆがみの程度も評価を行い、治療方針を決めることが大切です。
放置をしても失明はしませんが、良くなることは少なく、変わらないか悪くなるかのどちらかです。このため、視力低下やゆがみで不自由を感じているのであれば手術の適応があります。手術で網膜を引っ張っている膜を剝がして取り去ることで、網膜の網膜の変形が軽減します。
(眼底写真)写真中央部にキラキラした反射があり、網膜上膜の存在を示しています。また、そこから放射状に広がるしわ(網膜雛襞)が見られます。視力(0.4)
(光干渉断層計)
(上段)正常網膜の断面図では網膜の真ん中は緩やかに凹んでいます。
(中段)網膜上膜症例では網膜の表面に膜があり(矢印。膜の断面なので、線として写ります)、網膜が厚くなって真ん中の凹みがなくなっています。視力(0.4)
(下段)中段の症例の硝子体手術後、網膜の表面の膜はなくなり、真ん中の凹みが回復しています。視力(1.2)
私はこれまでに手術前後の視力やゆがみの変化、日常生活における歪みの感じ方について調べ、学会、講演会および英文誌で報告してきました。視力やゆがみは手術後3か月以内に改善しやすく、その後も緩やかに改善し、おおよそ1年間で安定することが分かりました。また、約70%の患者さんで歪みの程度が減少し、20%以上の患者さんは歪みを感じなくなっていました。図は視力、縦線の歪み、横線の歪みの平均値が時間とともにどのように変化するかを示しています。(注)ゆがみ、視力(統計で用いる数値なので普段使われる0.5とか1.0などの少数視力ではありません)ともに下に行くほど良い値を意味します。